ニュース

News
2020.04.03

ご利用者の声(フリーライターの方の記事)

しばらく通っていただいたフリーライターの方が、ニューロフィードバックについてご自身の体験も踏まえ、書いてくださいました。Web記事で掲載されたものです。とてもわかりやすいと思います。

 

「脳波をトレーニングする―ニューロフィードバック」

ニューロフィードバックは、強力な効果と意外に長い歴史を持ちながらあまり知られていない奇妙な技法だ。

今年の春、私はこの療法を体験しようと、ニューロフィードバックのセッションを行っている都心のオフィスを訪れた。オフィスは高級住宅街にあるマンションの一室で、通常のカウンセリングも行なっているという。室内には特別な機器などはなにもない。ただ、部屋の隅の机に2台のノートパソコンが置かれているだけだ。

2台あるうちの一方のパソコンには、電極が解析する私の脳波が映し出される。心電図と同じあのグラフだ。ニューロフィードバックのセッションの目的は、この脳波のグラフを使って、クライアントの脳波をトレーニングしていくことにある。

セッションが始まるともう一方のノートパソコンが起動し、どこかで見おぼえのある画面が現れる。簡単な迷路なのだが、その迷路の中央には白い点線が引かれていて、画面の隅から出てきた黄色いクチバシがその点線を飲みこみながら進んでいく・・・。そうだ、これはゲームの「パックマン」なのだ。

「パックマン」で脳波をトレーニングするとはどういうことなのだろう?  実は、このゲームにはコントロールキーがない。パックマンは最初、順調に迷路を進んでいくが、私がよそ見をしたり、まばたきをすると一瞬動かなくなる。あるいは、集中力が途切れて考えごとをしたりしてもパックマンは止まってしまう。隣のパソコンでは私の脳波がモニタリングされており、脳波を望ましい数値に導くために調整が加えられていて、それがパックマンの進行を促している。つまり、コントロールキーは私の脳波なのだ。

1回のセッションは30分で、その間私はパックマンを眺めているだけだった。身動きしたり考えごとをするとパックマンが止まってしまうので気をつけたが、ただぼんやりして座っているのと大して変わらない。

オフィスを出てから私は注意深く変化を観察してみたが、すぐにはわからなかった。「違い」をはっきり感じたのは、帰り道に音楽を聴こうと思ってイヤフォンを耳にした時だった。その音がいつもよりずっとクリアに、間近に聴こえたのだ。それは明らかな違いで、気のせいではなかった。ニューロフィードバックの世界では、セッションによるこうした変化を「クリーン・ウインドシールド効果」と呼んでいるが、1回のセッションではこの効果は1日程度しか持たない。脳波が安定し、調整を受けた脳の機能が鋭敏になった結果起こるとされている。

ニューロフィードバックの歴史はそれだけでも面白い。

人間の脳が電気を発生させていることは19世紀までに知られていたが、それが脳波として計測されたのは20世紀に入ってからである。さらに、動物を使った実験で人工的に脳に電流を流すとその行動が変化することがわかり、まもなくそれは人間でも確認された。そこですぐに問題になったのは、電気を使って脳に刺激を与え、てんかんやうつ病など、その原因が脳の機能不全に由来する病気を治療できないか、ということだった。

 

脳波は意図的に変化させることができるのかどうか、という疑問は、1960年前後にアメリカで研究が進められ、結論としてそれは可能であり、しかも、てんかんのような治療の難しい症状にも有効であることがわかった。

有名なアルファ波をはじめ、脳波はベータ波やシータ波などいくつかの種類に分けられ、それぞれに特徴がある。一連の研究から判明したことは、脳波には一定の振動数があり(いわゆるヘルツ=Hz)、しかも正常な範囲というものがあるということだった。たとえば、覚醒時の意識を表すとされるベータ波の望ましい値は12から15ヘルツで、これを大きく逸脱すると生活に支障が出る場合がある。実際、遺伝や不適切な習慣、あるいは特定のトラウマのために脳波は異常な数値を示すことがあり、それは当人の精神状態と一致していると考えられている。

 

ニューロフィードバックの原理は単純だ。クライアントの頭部に貼りつけられた電極は脳波を検知し、瞬時に見やすいグラフとして示される。ニューロフィードバックのソフトは、このグラフとゲーム(パックマン)を連動させて、望ましい値を脳波が示すとパックマンが進んでいくように設定することができ、ゲームを進めることで脳波が正常な数値に同調していくことを可能にするのだ。簡単にいえば、クライアントの脳波が異常なリズムを刻んでいる時、ニューロフィードバックはより正常なリズムをクライアントの脳に教え、脳波を矯正することができるのである。

こうして開発初期のニューロフィードバックは、脳波の矯正によって意識をコントロールできるという希望を人々に与えたが、後から考えると、このいかにもSF的なヴィジョンがかえって仇になることになった。

アルファ波は瞑想をしている時に現れる脳波として知られているが、ニューロフィードバックが世間に紹介された時、それがアルファ波を人工的に高め、解脱に導く手段としてカウンターカルチャーの支持者たちから熱烈な歓迎を受けることになった。

しかし、こうした熱狂はかえって真面目な研究者を遠ざけることになり、ニューロフィードバックは十分な試験を受ける前にあやしげなテクニックとしてなかば捨て置かれることになったのだった。また、1960年代から数十年の間は精神疾患の薬物療法全盛の時代でもあり、薬理学こそが救世主だと信じられていた当時の医学界からは、ニューロフィードバックは冷たい反応しか得られなかった。そのため、ほとんど21世紀に入るまで、ニューロフィードバックは一部の医療関係者の間で関心が持たれていたにすぎず、それが一般的な治療法として広まることはなかったのである。

しかし、現在では事情が違っている。アメリカではすでに多くの病院や学校がこの療法を導入し、とくにADHD(注意欠陥多動性障害)やトラウマ治療に大きな成果をあげている。それだけでなく、ニューロフィードバックはパフォーマンス向上の目的でスポーツや芸術の世界でも取り入れられており、サッカークラブのACミランが活用しているのは有名な話だ。

ニューロフィードバックは、トレーニングする脳の部位や脳波の種類によって幅広い応用がきき、治療効果も非常に高い。しかも副作用がない。難点は保険がきかないことだ。ニューロフィードバックは特定のテーマ(たとえばトラウマの解消や、集中力の向上)にたいして20回程度のセッションの受けることが一般的な基準になっているが、料金にばらつきはあるものの15万円前後はかかることになる。ただし、それ以上の追加セッションは必要ない。

私自身は、これを書いている時点で20回近くセッションを受けている。最初に書いたように、1回目はただ聴覚が鋭くなっただけだったが、回を重ねるにつれて以前より集中力が高まり、同じ生活をしていても疲労感が少なく、内面的な落ち着きが明らかに深まった。

もちろんこれは一般的な感想で、ほかのセラピーでも同じような効果が得られるかもしれない。しかし、これまで色々な療法を試してきた私からすると、ニューロフィードバックの効果は「自己暗示」や「気のせい」ではないとはっきり感じる。そう考えると、その費用もけして高いものではないと私は思う。真剣に問題を解決したいと考えている人には、私はニューロフィードバックを検討することをおすすめしたい。

  • HOME